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名古屋高等裁判所 平成7年(ネ)901号 判決

控訴人(被告) Y1

控訴人(被告) Y2

右両名訴訟代理人弁護士 佐久間信司

被控訴人(原告) 国民金融公庫

右代表者総裁 尾崎護

右代理人 A

右訴訟代理人弁護士 大矢和徳

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

二  被控訴人

控訴棄却の判決。

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人が、控訴人らに対し、被控訴人は、訴外B(以下「B」という。)に対する貸金債権を有し、また、これを担保するため、B所有の原判決別紙物件目録〈省略〉の土地及び建物(以下、各別に「本件土地」、「本件建物」といい、合わせて「本件土地建物」という。)につき根抵当権の設定を受けたものであるが、控訴人らが何らの権原がないのに本件建物を占有していることが右根抵当権の実行の妨害となっているとして、右被担保債権の保全のために、Bの本件建物所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する必要がある旨主張して、本件建物の明渡を求めた事案である。原審は、被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも認容した。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の事実摘示の第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の当審主張

(一) 被控訴人の有する権利が貸金債権に過ぎないのに、代位行使する権利は物上請求権である。このような場合、債権者代位権の行使が許されるとしても、債務者で本件建物の所有者であるBが本件建物の明渡を受領しないということの立証はなく、また、被控訴人に対する直接の明渡しを認める必要はないのであるから、被控訴人は、控訴人らに対し、所有者Bへの明渡しを請求できるだけであって、直接、被控訴人への本件建物の明渡しを請求することはできない。また、抵当権が目的物の占有権原を含まないものであることに照らし、抵当権者である被控訴人に、自己へ抵当権の目的物の直接の明渡しを請求できるとする解釈は、被控訴人に権限外の行為を認めるものであって、民法四二三条の代位権行使の方法につき法令の解釈を誤ったものである。

(二) 原判決が、「競売手続が進まないのは、近年の不動産取引の沈静化の傾向の中で買受希望者は第三者占有のある物件の購入を差し控える傾向が顕著であり、本件土地及び建物の買受希望者は、本件建物について控訴人らが占有していることから、買受けを躊躇し、競売手続が進まない実情にある」旨認定したのは、「最近、裁判所の競売手続が進まないのは、不動産価格が低落し、裁判所の最低競売価格が市民に高額な印象を持たれていたり、長引く不況のため需要と供給のバランスが崩れ買い手が少ないことによるというのが主な理由である。」との経験則に反するものであり、また、根抵当権の目的不動産に占有者がいるとしても、買受人は買受後に裁判所から不動産引渡命令を得て不動産の明渡しを得られるのであるから、占有者の存在が競売手続の進行を妨げているというのは、甚だしい事実誤認である。

2  被控訴人の当審主張

控訴人の右各主張は争う。

なお、仮に、控訴人らの抗弁である、Bが、C(以下「C」という。)に対し、本件土地建物を賃貸し、控訴人らはCから本件建物を賃借したとの事実が認められるとしても、Cは、平成七年一二月一一日、名古屋高等裁判所平成七年(ネ)第五八六号事件において、被控訴人に対し、本件土地建物につき何らの占有権原のないことを確認し、平成八年四月一日限り本件土地建物を明け渡すこと等を内容とする裁判上の和解をした。右のとおり、控訴人らに対する転貸人であるCが本件建物につき占有権原を有しない以上、控訴人らは右転借権をB及び被控訴人には対抗できない。

第三証拠関係

原審及び当審の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は理由があるから認容すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目裏一〇行目、同五枚目裏五行目、同六行目の各「占有権限」をいずれも「占有権原」と改め、同五枚目裏二行目「受けていることが認められる。」を「受けたことが認められ、成立に争いのない甲第九号証によれば、Cは、右判決につき控訴した上、平成七年一二月一一日、名古屋高等裁判所において、被控訴人との間に、Cには本件土地建物につき何らの占有権原のないことを確認し、平成八年四月一四日限り本件土地建物を明け渡し、右仮登記の抹消登記手続をする旨の訴訟上の和解をしたことが認められる。」と改める。

二  控訴人らの当審主張に対する判断

1  控訴人らは、被控訴人が貸金債権に基づきBの物上請求権を代位行使することが認められるとしても、債務者であるBが本件建物の明渡しを受領しないということの立証はなく、被控訴人に対する直接の明渡しを認める必要はないから、被控訴人は、控訴人らに対し、債務者Bへの明渡しを請求できるだけであって、被控訴人に直接本件建物の明渡を請求することはできない旨、また、抵当権が目的物の占有権原を含まないものであることに照らし、抵当権者である被控訴人に、自己へ抵当権の目的物の直接の明渡しを請求できるとする解釈は、被控訴人に権限外の行為を認めるものであって、民法四二三条の代位権行使の方法につき法令の解釈を誤ったものである旨主張する。

しかし、被控訴人がBに対する貸金債権に基づきBの所有権に基づく妨害排除請求権を行使するに当たり、債権者としては、債権の保全のために必要な行為をなしうるのであって、所有者への明渡しに限定されるものではなく、原審認定の事実関係のもとにおいては、被控訴人はBに対する貸金債権の保全のため、被控訴人への本件建物の明渡しを控訴人らに求めうると解されるところであるから、控訴人らの右主張は、採用できない。

2  また、控訴人らは、原判決が、「競売手続が進まないのは、近年の不動産取引の沈静化の傾向の中で買受希望者は第三者占有のある物件の購入を差し控える傾向が顕著であり、本件土地及び建物の買受希望者は、本件建物について控訴人らが占有していることから、買受けを躊躇し、競売手続が進まない実情にある」旨認定したのは、「最近、裁判所の競売手続が進まないのは、不動産価格が低落し、裁判所の最低競売価格が市民に高額な印象を持たれていたり、長引く不況のため需要と供給のバランスが崩れ買い手が少ないことによるというのが主な理由である」との経験則に反するものであって、事実誤認であり、また、担保権の実行においては、不動産に占有者がいても、買受人は買受後裁判所から不動産引渡命令を得て明渡を強制できるのであるから、占有者の存在が競売手続の進行を妨げているというのは事実誤認である旨主張する。

しかしながら、控訴人らは、本件建物につき何らの占有権原を有しない占有者であって、このような占有者がいることによって、一般に不動産競売手続における買受希望者が買受申出に躊躇を覚え、結果として競売手続の進行が害されること、及び不動産引渡命令の制度の存在はかならずしも買受希望者の不安の解消にはつながっていないことは、当裁判所に顕著な事実であるから、この点の原審の判断には何らの事実誤認はない。したがって控訴人らの右主張も採用できない。

第五結論

よって、原判決は相当であって本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 矢澤敬幸)

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